『THE GREAT ESCAPE』セルフライナーノーツ
M1『ファンタジア』
この曲をオープニングにしたのは、やはりレコーディングマジックだな〜と。デモテープの段階では、一曲目って感じじゃなかったけど、ドラムの林さん、ベースの高水さん、ギターの松原さんが紡ぎ出すムード、これに尽きると思う。このグルーブは機械じゃ出せない!
一見、地味なオープニングかもしれないけど、これが“寺岡呼人の現在”って感じがして、迷わず決めた。
林さんのドラムって、録ってる時は「大丈夫かな〜」って思う瞬間が何度かある。それは、僕等の世代が余りに機械に慣れてしまったのと、技術的にも、感覚的にも、「キチッとやんなきゃ」みたいな体質が染みついていて、何度テイクを重ねても同じ所で同じフレーズを弾いたり、歌ったりしてしまう。
でも、林さんは叩く度に全然違うドラムを叩く!それが余りにもインパクトがあって「大丈夫かな〜」になるのだが、実際、オケができあがると何とも言えない音と、グルーブになってる。サビの部分で「呼人君、ここスネアじゃなく、タム叩いてもいい?」と言われ、「ハイ」と答え、そのサビがやってきた瞬間「これだぁ〜!」と身震いした。そう、このタムの音が昔、ユーミンのレコードで何度も聴き馴染んだサウンドなのだ。
そして、ソロになった後も、こういう音を求め、レコーディングで色んな人に叩いてもらったが、やはり本家!どうしてタム一発なのに、こんなに違うんだろうね。そして、こんなに全体のサウンドが変わるんだ?最後も「あれ、止めちゃったのかな?」みたいなシメ方だったけど、これがまたいい感じ。
そして、そのドラムに寄り添うような高水さんのベースも最高。
僕のスタジオは狭くて、せ〜ので録れないんだけど、セッションっぽい音になってるのもさすが。
こういうマジックに出会った瞬間、アーティストとしての幸せを感じる。
それも、憧れのミュージシャンと一緒にね!
M2『アストロボーイ』
どうしてもアルバムに入れたかった曲。
正に“アルバム”という足跡を、将来思い返した時に、そこにいて欲しい曲だった。
とても個人的な思いだけど、それは既発の曲でもたくさんあってそういった曲が今回も数曲入っている。
初めて読んだアトムと、その世界。そして今、そこに立ってる自分。そんなムードが出せたと思ってる。
1曲目とはうってかわり、基本は打ち込みで、ギターソロをバンジージャンプフェスティバルの町田君に弾いてもらった。
最後のコーラスもやってもらってる。
リズムは、色んなCDの音をサンプリングして、混ぜてみた。アトム!ってよりは、メトロポリスって感じかな〜。
ピアノの音は、潔くモノラルにして、50年代のコップレッサーで潰して、ベターっとした音にしてみた。
でも、この曲は実はバラードだ。それは、この間のコールマンミーティングでもやったんだけど、パンクっぽい曲や、アップテンポの曲をバラードに出来るって事は裏を返せば、曲として、メロディアスって事だと思うしね。この間、エルヴィスコステロのボーナストラック入りCDを買ったんだけど、コステロの曲もバラードに出来る曲なんだよね。彼のデモテープ、だいたい弾き語りでやってんだけど、これがいい!
手塚治虫の作品ってあんなにエンターテイメントなのに、実はかなり内省的だと思う。
そこが、子供ながら不思議な気持ちになってった部分だと思う。
トビオがアトムになった2003年、結局現実は、自動車は空飛んでなかったし、ロボットもいなかった。
M3『競争る為にだけ生まれてきた訳じゃねぇ』
銀杏BOYZのライブを観て、触発され、すぐに書いた曲。
で、僕の中でも新しい“何か”を感じたし、結果、その“何か”を桜井に吹き込んでもらった気がする。
常に、自分にとっての代表曲と呼ばれるもの、スタンダードナンバーが欲しい。それはミュージシャンにとって常にテーマだと思う。
いつまで経っても、デビューの頃の曲をやってないと成立しない人達もたくさんいるからね。
そういう意味で、この曲によって新しい寺岡呼人のスタンダードが生まれた事は、何よりも幸せな事だ。
フォーク、といってもトラディショナルなフォークではなく、吉田拓郎以降のニューミュージックといっていいフォーク以降の世代の僕にとって、“フォーク”ってある時期まで、「仮想敵」「絶対悪」だった(笑)。それは自分のアイデンテティーを守るものでもあった。
だから、RC、モッズ=本物、長渕、千春=偽物、みたいな事を思ってないと、バランスがとれなかった時期だった。でも、世代ってのはそんなものかもしれない。少し学年が違うと、聴く音楽のジャンルもミュージシャンもガラッと変わる。
そんな訳で、“アンチフォーク”だった僕の概念をまず最初に変えたのが、ゆずで、この間の銀杏BOYZのライブで更に“が〜ん”と来たのだ。
パンクバンドなのに、思いっきりフォークの匂いがしていて、それがまたグッと来た。
拓郎さんのメロディーってワビサビあるんだよねー。ある意味日本人にとっての、ホントの“フォークソング(民謡曲)”かもしれない。
そんなテイストを自分の中に取り込めたのは大きな収穫だった。
この曲が今後どんな風に成長していくのか、楽しみだ。
M4『走れ、機関車!』
この曲のサビは大昔に書いてて、すっかり忘れていて、今回の曲作りをしてる時に何故かふと思い出して、一気に書いた。
そういう一部のメロディーを後で付け足すっていうのは、今まで、あまりなかった。
それで、ホントに一晩で一気にアレンジも全部出来て、完成したのだが、詞をずっと書いてなく、一番手こずった。最初のタイトルは『KING&QUEEN』で、まったく違う歌詞だった。で、その時期に桜井と話した時に彼に「歌詞はいつ書くの?」って聞いたら「メンバーがレコーディングしてるのを聞きながら一気に書く事が多い」って言ってて、何か机に向かって「書くぞ」モードになって書いてるばっかもどうかなーって思ってた時期でもあったんだけど、その言葉が新鮮でずっと印象に残ってたのと、元来“影響されマン”なので、この曲のピアノ入れの時かな、それまでの歌詞を全部やめて一気にこの詞に変えた。
そうやって出来た歌詞も気に入ってる。そしてその曲を桜井が気に入ってくれたのも何だか嬉しいね!
リズムは『競争る為に〜』の時に、小田原さんと一緒にレコーディングした。ドラム最高!いぇ〜い!
ベースはその時録ったのは仮のつもりだったんだけど、結局それをOKにした。後、ホントはピアノトリオみたいにギターなしでやろうと思ったけど、ライブを考えてみるとやっぱ寂しいと思い、ジョージハリソン的なギターを弾いてみた。ツインギターの危ういハモリ!このヘタウマ感が最高(笑)。
そして、ビートルズみたいな逆回転ソロ!なかなか雰囲気出てるぞ。
割と今回は、こういう感じでシンプルなアンサンブルでレコーディングできたのも、良かった。
まったく計算してはないけど、偶然『競争る為にだけ生まれてきた訳じゃねぇ』の後に『走れ、機関車!』が来て、アンサーソングっぽくなってるのもオツ(笑)。そしてアルバムタイトルが『グレイトエスケイプ』!う〜ん、コンセプトアルバムみたいだぜ。
M5『酔いどれ天使』
かまやつさんの『どうにかなるさ』って曲が凄い好きで、ああいったカントリー調の曲を書きたいと思ってた。
でも曲を先に書いても最近なかなか歌詞が書けないので(笑)、ぴったりのテーマができればいいのに、と思ってた所に、この曲のコンセプトを思いついた。だから、詞曲も1日で出来た。こういうパターンの曲は飽きないんだよね。
そういえば、渋公のGCの時に、東芝EMIの社長さんが観に来てくれてて、次の日「『酔いどれ天使』が染みました」ってメールをくれた。
当日リリースしたばかりの曲で、まだ歌詞も浸透していないのに、あの広い会場で初めて聞いた人に詞が伝わったのも嬉しかったし、「男同士に伝わる何かがあるのかな」と思った。ああいう場所で、新曲をやれたのも良かった。「10年を振り返って...」的な振り返る感じでもなくね。
ドラムは松永さん。「レヴォン・ヘルムみたいなイメージで!」とリクエストしたら、もうバッチシのドラムを叩いてくれた。
ベースはこれまた、こういう曲を弾かせたらピカイチの高水さん。ドラムを聞くなり「レヴォン・ヘルムみたいだね」と(笑)。
そして、リックダンゴばりのベースを弾いてくれた。最高!
酒飲みの人じゃなく、酒飲めない僕が書いた所がこの曲をオツなものにしてる(自画自賛!)。
その時期起こった事件やニュースを歌にすることをトピカルソング(時事歌)と、なぎらさんが教えてくれたが、ボブディランもたくさん歌ってた。そういう曲ってその時期が過ぎると、どうしても色褪せてしまう。でも自分にとってのトピカルソングはずっと歌っていける。
なぎらさんがGCで歌った『ヒデちゃん』っていう曲もそうだ。
そういう意味じゃ、“寺岡呼人のトピカルソング”のきっかけの曲になりそうだ。
M6『STAY GOLD』
この曲も、『ファンタジア』同様、ドラムが林立夫さん、ベースが高水健司さんだ。
そして、今回初めてギターを松原正樹さんに弾いてもらった。
もう、正に中、高と聞きまくったユーミン、松田聖子サウンドの布陣だ!
デモテープでは、埋められなかった“空気”が、自然と埋められて、何とも言えない奥行きが生まれた。
ストリングスはチェロの阿部さんにお願いして、アレンジしてもらったが、これも凄くよく、気に入ってる。
阿部さんは、ゆずを始め、僕の曲の殆どをお願いしてる人だ。
曲のイメージは、70年代の青春映画。
『小さな恋のメロディー』『ラ・ブーム』『アウトサイダー』など、あの頃の青春映画って、独特のほろ苦さがある。
当時は、それが当たり前だったから何とも思わなかったけど、今観ると特にそう感じる。
世界はまだ純情だったのかな(笑)。
韓国ドラマブームに完璧に乗り遅れてるんだけど(笑)、今韓国などがまだ“純情”なのかもね。
そういう「ほろ苦い感じ」を、僕も含めて、今みんなが飢えてるような気がするんだよね。
この間ミスチルの新譜を一足先に聴かせてもらったんだけど、正にそういう「ほろ苦さ」を感じさせる曲が何曲もあって、やっぱグッと琴線に触れたし。「ほろ苦く」なりたいんんだよ(笑)!オレ達。というわけで、そんなイメージでサウンドを作ってみた。
M7『スワンソング』
荒涼とした、大地。ヨーロッパ?アメリカ?日本?ぼんやりと無国籍なムードを出したかった。
ジェイムス・イハとかニール・ヤングなどの孤独なアメリカンフォークをイメージして作った。
この曲は『cry baby』の中に入ってるけど、こういう曲を作れたのもコンパクトアルバムというヴォリューム感があったからで、シングルでもない、アルバムでもない中だからこそ生まれた曲だと思う。そして、新たな可能性を示してくれた記念碑的な曲でもある。
ドラムはカースケさんで、ギター、ベースは僕。コーラスはサニー、アンソニーのリトルリーグコンビ!
最近、Aメロ、Bメロ、Cメロとかって増えていくってのが嫌で、Dメロとか殆ど作らなくなってきてる。
この曲はA、B、Cメロとあるけど、間奏はなし(笑)。ギター弾く曲はなるべくソロはなし!
ソロって必然性があれば別だけど、当たり前のようにあるのって、ちょっと違うよね。
昔は、盤の限界があって、76回転の頃は3分そこそこしか、レコーディングできなかった。でも、その制約があったからこそ、無駄を省いた秀逸なアレンジの曲が多いんだと思う。あと人間の集中力も実はそれぐらいなんじゃないか?って思うこともある。
エルヴィス・コステロのアルバムで凄い好きな『GET HAPPY!』もだいたい2分台の曲ばっかだし。
小さい頃、絵本の中や、夢の中と現実がごっちゃになるような瞬間が何度もあった。
「あれ、夢だったっけ?、それとも現実だったっけ?」みたいな。そんな幻想のような雰囲気の詞を書いた。
M8『ム・ニ・ナ・ル』
この曲は何故か駐車場で瞬間にできた(笑)。
車に乗る瞬間かな〜、乗ってからかな〜、すぐに出来た。確か「死んだら〜」って最初にボイスレコーダーに入れてたと思う。
この曲は、A、Bメロしかないね。しかもソロなし(笑)。
このギターの音は凄くいいと思う。これは、“CRY BABY”でアンプに3本ぐらいマイクを立てて、色んな角度から狙って、マニピュレーターの向笠と二人で録った。こういうのは結構楽しいもんだ。ギターの音はエンジニアの平沼さんにも褒められた!
ギターは昔、民生君と交換したレスポール。僕のリッケンバッカーのベースと交換したんだよね。太くていい音!
ドラムはカースケさんで、これはクリックも使わず、ギターとドラムで一発録りして、後でベースを入れた。
高校生が思いつくような曲を、この歳になっても作れた事が嬉しい!
RCっぽい、こういう曲って、「大人になったら出来なくなるんだろうな〜」って単純に思ってたから、何だか単純に嬉しいんだよね。
M9『危険な情事ハリソン〜プライベートレッスン編〜』
これは、完璧にライブ仕様の曲(笑)。
GSのコンピとか聴いてると、今じゃあり得ないような歌詞とかセリフが出てくる。思わず笑っちゃう。
でも、その世界に当時の若者はどっぷりはまってた訳で、真面目に演って、真面目に聴いてたんだと思う。
それで、どうしてもセリフのある曲にしたくて、最初からセリフありきでアレンジをした。
そんで、出来上がったらどうしても「ホリケンに言ってもらいたい」って願望が強くなって(笑)、お願いした。
“CRY BABY”に来た彼は、ネタ帳を取り出し、「こんなのどうっすか?」とか言いながら、もの凄く色んなパターンを言ってくれた!
どのセリフも周りの僕等にドッカンドッカン受けてて、もうどれにしようか迷うぐらいだった。別バージョン出したいぐらい!
仮タイトルは“キューティーハニー”ってなもんで、まさにあの感じとか、山本リンダ辺りを狙った。
良いのか、悪いのか分からないけど、意識した曲があっても、あまりオリジナルを聴いたりしないから、イメージだけで作ってしまうんだよね。だから、より自分らしくもなるかもしれないけど、中途半端になるって事もある。でも、そういう作り方が好きなんだろうな。
キューティーとかリンダって、やっぱアレサ・フランクリンとかの流れなのかな?でも、カッコイイ!このエレキも、ヘタウマ感が最高(笑)!
M10『イッツオンリーバイオレンス』
この曲も駐車場で思いついた記憶がある。
そして、アッという間に出来た。こういう速度で出来るっていうのは、とっても手応えがある。
すぐれたアート(芸術)って、ヒラメキと、速度が凄い関係してると思う。
ドラムはカースケさん、当然「チャーリーワッツでお願いします」とリクエスト(笑)。
ギターソロは、これまた町田君。それ以外は自分で弾いたんだけど、キースが弾く、いわゆる“ギタリストが弾くベース”のイメージで、ルーズに弾いてみた。アルバムでは、再ミックスしている。恐らく聴き比べるとその差が出ているはず。僕はこのアルバムバージョンはかなり好きだな〜。
後半は『悪魔を憐れむ歌』風に展開していく。
僕等は、パンク以降の世代だから、ロックって言うとどうしてもパンクをイメージしてきた。
ハノイロックスみたいなバンドもあったけど、ストーンズのような演奏をする事はあまりなかった、っていうより難しかった。
ストリートスライダースみたいなバンドは結構いたけど、どれを聴いても「う〜ん」って感じだった。
プライマルスクリ−ムぐらいから、パンク以降の世代のストーンズ解釈のバンドが出てきて、バランスとれてきたのかな。
いずれにしても、ビートルズにしろ、ストーンズにしろ、なんで21世紀になっても、みんなバックトゥールーツするのかな(笑)。
そういう中で、偶然とはいえ、ずっと好きだったストーンズ風味を自分なりに作れて嬉しかった!
テンポが遅くたって、パンクを越えるロックンロールは出来るんだぜ、yeah!。
M11『夜曲』
ジュンスカからソロになって、行き着いた場所がこの『夜曲』かもしれない。
そして、このアルバムはここまでの僕の旅の集大成でもあるし、これからのステップになるアルバムだと信じてる。
「様々なタイプの曲が入ってますね」とキャンペーンに行くと色んな人から言われた。
ソロになった頃は、それこそ背伸びして“色んなタイプ曲”を作ろうとしていたと思う。
でも、今はそれらが全部自然に出来てる事に気づいた。
それは、休みなくやり続けたからかもしれないし、ゆずを始め色んな人達とのセッションから得た経験もあるかもしれない。
いずれにしても、このスタートラインに立つのに、僕は10年も掛かってしまった。まったく不器用な男だ(笑)。
『夜曲』に関しては、矢野さんという歌手としての一級品の素材を“誰に”“どうやって”みたいなのを意識して作った。
そうやって、出来た時「でもこういう感覚って誰にも必要なはずだ」って思った。
こういう感覚はネプチューンをやった時以来だった。あの時も「一体ネプチューンの音楽を誰がどういう風に聴くんだろう?」って考えた時、自分が小さい頃聴いたドリフやアニメの歌を思い出した。不特定多数の人が聴く訳だから、“その人達に向けて”っていうのをメチャメチャ意識した。
そうやって『明日に向かって走れ』ができた時、「こういう意識は作品を作って世に出す人はみんな持ってなくちゃ」って、目からウロコな気持ちになった。だからあの曲もカバーさせてもらった。そして、そういう感覚をもう一度思い出せてくれたのが『夜曲』だった。
確か、この曲も駐車場でサビの部分の詞とメロディーが同時に出てきたような.....。
恐るべし駐車場マジック(笑)。
田舎の松永湾に流れる川の河口とか、岡山の津山を流れる、宮川とか、吉井川をイメージしながら、これも一気に書いた。
この曲を始め、アルバムの曲達が今後の僕の大事な試金石になっていくと思う。