『THE GREAT ESCAPE』ライナーノーツ
鮮やかな脱出劇だった。静かに時を待ち、一歩ずつ準備を進めて、一気に追い風に乗った。その名も『グレイト・エスケイプ』。
10th・アニバーサリー・アルバムとして、寺岡呼人 & Golden Circle of Friends が3月17日に放つ最新アルバムである。
全11曲収録、そのほとんどが新境地。
いったい何人のミュージシャンがソロ活動10周年を迎えて、新しい自分と出会えるというのだろう。
しかも気負うことなく、自然の流れに乗って。寺岡呼人の自分自身からの脱出劇は本当に鮮やかだった。
幻想的な幕開けからトランスへと加速する「アストロボーイ 〜Born on the seventh of April 2003〜」。
行間から温かいものが伝わってくる「スワンソング」。毒気たっぷりのロックンロール「イッツ・オンリー・バイオレンス Part氈`」。
昨年発表された2枚のコンパクト・アルバムからの楽曲が、寺岡呼人の劇的な変化を告げている。
それを大々的にアピールしたのは10周年記念シングル「競争(はし)る為にだけ生まれてきた訳じゃねぇ」。
峯田和伸氏 (銀杏 BOYZ)とGolden Circle vol.04 で共演した直後に書き上げた 、肩の力が抜けた、だからこそメッセージが真っ直ぐに届くロックンロール。昨年、11月17日にその歌詞を手掛けた桜井和寿氏 (Mr.Children) とコーラスで参加したゆずと共に渋谷公会堂で行った、寺岡主催のイベント“Golden Circle vol.05”の大成功も記憶に新しい。
華やかに開けた10周年イヤー。『グレイト・エスケイプ』はその最初のハイライトとなる。
彼が脱出しようとしているのは急速に進む時の流れ。性急な結果ばかりを要求される社会。尽きることのない人間の欲望。誰も逃げられない死というもの。
それでも自分のペースで走らなければならない。かつての友との輝いていた日々や心置けない友とのひとときを支えにして、君の手を離さないように、迷子にならないように。リアルで削ぎ落とされた歌詞が起爆剤となって、彼の音楽も歌も解き放たれていく。
それを象徴するかのように「走れ、機関車!」が人生というレールを走る。一方の車輪に苦い真実、もう一方に眩しい夢を乗せながら。
飄々とした語り口の「ム・ニ・ナ・ル」。ネプチューンの堀内 健氏が登場する「危険な情事ハリソン 〜プライベートレッスン編〜」は腰を抜かすほどの問題作(この英語教師からは逃れられないかも!)。やがて、すべての想いは河へとたどり着く。
矢野真紀氏へ提供した「夜曲」はいつまでも忘れたくない故郷を思わせる。初期の代表曲「アップルパイ」のように、これからの長い旅路の支えとなる曲だ。この遙かな旅は、10年前の彼自身すら想像していなかっただろう。
この偉業を称賛しても、彼はただ微笑んでスルリと逃げてしまうだろう。だって10周年イヤーは始まったばかり。
寺岡呼人の新しい旅は始まったばかりなんだから。
Text by 柳村睦子